カステルフランコ
フィレンツェへ向かう途中、スカルパのブリオン・ヴェガの墓地のあるカステルフランコへと立ち寄る。
カステルの名の通り、市街地には城壁と堀。
この近くにブリオン・ヴェガ行きのバス停があるのだが、言葉はイタリア語のみだし英語通じないしバスの行き先がいくつかあってとてつもなくわかりにくい。
ブリオン・ヴェガの墓地(カルロ・スカルパ)
多くの建築家に参照されるスカルパの傑作だけにここもヨーロッパに来たら絶対に訪れたかった場所の一つ。
が、最悪の雨…。
基本的に建物のボリュームはコンクリートだが、ところどころで大理石が組み合わされていて壁面に変化がある。
コンクリートでつくられた近代の神殿。パルテノン神殿のように何千年も残りえるんじゃないかというような感覚。
建物内外問わず、段差をつけたコンクリートの造形がよく見られる。
薄い大理石が小窓にはめ込まれていてうっすら光りが透過している。
直線が支配的な中、エントランスと祭室の間には円形のゲート。
動線を規定する細長く囲われた空間を抜けると開けた場所へ。
ここの壁面にもさりげなく大理石が使われていたり、スリットが段差の装飾とともに用いられていたり。突き当たりに見える光へ向かって脇のスリットから漏れる光の中を歩いていく。光の遮り方で人の動きを導こうとしているようにも思える。
天井のスリットから光が落ちてくる。
敷地を横切る長い水路。ベネチアでも庭園で水路を作っていたが静的な場所に動きやメリハリを出すのに最適なのかもしれない。
細長い空間の入り口にはタイルや円形の石材といった装飾。立ち入り禁止になっているが奥にはスカルパ自身の墓地。
スカルパ自身の墓地と隣の共同墓地へと続く。共同墓地へと続く道の天井には開口が開けてある。
共同墓地から見る。
共同墓地側からの入り口の突き当たりにあるのがこの2つの輪。
それぞれの和の縁には赤と青のタイルのようなものが埋め込まれている。
晴れていたらこの前面にトップライトからの光が落ちてきてタイルが輝きそう。
祭室にもあったが、直線が支配的な空間の中でこの円が特別な場所を意味してるとしたら、メインのエントランスはこちら側なのかもしれない。
アーチ状の構造物の裏にはカラフルなタイルが埋め込まれている。色の使い方がさりげない。
ここまで見てきたスカルパの作品は全てリノベーションやインテリアデザインで、スカルパが一からすべてをデザインしたものを見るのはとても楽しみだったが、今まで見てきたもののクオリティーをここでも見ることができつつも、その上、構造物の造形や敷地へのボリュームの置き方、空間の構成などの新しいデザインの特徴を見ることができた。
安藤さんが言及するのもわかる幾何学的なコンクリートの造形やボリューム配置だが、安藤建築とは違って細部ではコンクリートはかなり装飾的に造形されているし、他の素材を使って空間に装飾を持ちこんでいる。
敷地を囲う壁は内向きに傾いていて、敷地に内向的な作り方とも思えるが角だけがこのようになっていて周囲の畑が見える。
行ったときはやまない雨にだいぶいらついていたが、今思えば神聖な感じが増していてよかったのかもしれない。
もっとゆっくり見たかったが、恐ろしく本数の少ないバスの時間が迫っていたのでやむなくここを後にする。
フィレンツェ
広場のど真ん中に大聖堂などいくつかの建物が建っていて、広場としては狭苦しい印象を受ける。
サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂
緑がかった色の装飾。周囲の建物の色から圧倒的に浮いていて不思議な感覚。
ファサードに色を使った教会はあまり見たことがなかったのでなかなか圧倒される。
ヴェッキオ宮殿
ヴェッキオ橋
ウフィツィ美術館とピッティ宮殿を結ぶヴァザーリの回廊が上に乗っかっている。
ウフィツィ美術館とピッティ宮殿はメディチ家の執政所と自宅で、都市を横断してそれらをつなぐのがヴァザーリの回廊。
ウフィツィ美術館にも訪れたが、最上階の回廊はなかなか圧巻。
このヴェッキオ橋、橋、回廊、そして橋上店舗と多くの機能が複合している。
現代でもこんな複合機能を持つ橋が作られたら面白そう。
ピッティ宮殿
建物自体は美術館になっていて、背後には巨大な庭園がある。
パラッツォ・メディチ・リッカルディ(ミケロッツォ・ディ・バルトロメオ)
第一層の荒石積み(ルスティカ積み)が特徴的。バルトロメオはブルネレスキの追従者で、中庭の列柱廊はブレネレスキのオスペダーレ・デッリ・イノチェンティを模したものらしい。
サン・ロレンツォ教会(フィリッポ・ブルネレスキ)
この教会にはミケランジェロのメディチ家礼拝堂が付属している。
ベネチアで見た教会と同じファサードの作り方をしている。
ストリートに沿った巨大なコロネードが多い。
この日もあいにくの雨だったが、他の都市の建物に比べて軒が長く出ているものが多いため、ひたすら壁沿いを歩くと傘なしでもあんまり濡れない。
奥に見えるブルネレスキによるフィレンツェ大聖堂の巨大なドームはかなりの存在感。
オスペダーレ・デッリ・イノチェンティ(捨子保育院)(フィリッポ・ブルネレスキ)
ルネサンス建築の代表作。ファサードの柱が一般的な列柱に比べてかなり細い。
とにかく印象が軽快で、柱が細くなるだけでこんなにも印象が変わるのかと驚く。
中庭。柱の細さで列柱廊と中庭の境界が弱まっているように感じる。
アカデミア美術館
ダビデ像を見に行く。予想以上にでかい。特に彫刻に興味はないがこの像の筋肉の表現には見入ってしまう。
サンタ・マリア・ノヴェッラ教会(レオン・バッティスタ・アルベルティ)
フィレンツェ駅を降りたら目に入るひときわ目立つ教会。フィレンツェ駅とフィレンツェ大聖堂のある広場を結ぶストリートの入り口に立つ。
この広場に面する建物はなぜか二層以降が広場にせり出している。1階店舗用の庇のようなものを作りたかったのだろうか。
サンタ・クローチェ聖堂
パッツィ家礼拝堂(フィリッポ・ブルネレスキ)
サンタ・クローチェ聖堂に付属。
サント・スピリト教会(フィリッポ・ブルネレスキ)
広場に面するファサードがシンプルすぎて驚く。
フィレンツェはさすがルネサンス発祥の地だけあって西洋建築史の教科書。
ただ、個々の教会建築のクオリティーは高いかもしれないが、街並みという点ではあまり美しさを感じなかった。街中で車が渋滞していたり、広場には醜いゴミ箱が出しっぱなしになっていたりと街並みへの気遣いが弱いように感じた。
シエーナ
フィレンツェからバスでシエーナへ。
いきなり何かのパレードに遭遇。
古そうな井戸のある中庭。
世界一美しい広場ともいわれるカンポ広場。
周囲はレストランや多くのショップで囲われている。
扇状の広場は市庁舎に向かって傾斜している。
この傾斜が原因か、地べたに座ってくつろいでいる人がとても多い。子供たちは走り回っているし、広場の傾斜が多くのアクティビティーを生んでいる。市庁舎を中心として扇状に緩やかに包まれるようにして建物に囲われているのもこの場所を心地いものにしている要因だろう。
広場への入り口。ストリートから人を広場へ導きいれるような傾斜が作られている。
市庁舎の裏に降りていくと、駐車場の中に市場が。
骨董品というかがらくたっぽいものが多い。
駐車場はわりと見通しがいい。
シエーナは建物は赤茶色っぽいものが多く、街全体の印象も赤茶色。
中世の都市の雰囲気を保ち、城壁を超えてスプロールすることもなく、周囲は緑地。
細い路地も多く、坂も多い。
シエーナ大聖堂。暗めの色彩を持つ建物が多い中、日の光に映える色彩。
城壁に設けられた街への入り口。
下へ降りてみる。敷石とその間に緑が顔を出す道はとてもいい雰囲気。
丘を覆うように作られた街だとわかる。
観光客もそれほど多くなくて、とても居心地の良い街。
サンジミニャーノ
シエーナからバスでサンジミニャーノへ。
街の中心を通るメインストリート。沿道にはたくさんのみやげ物屋。突き当りにはサンジミニャーノの象徴ともいえる塔が見える。
チステルナ広場から空を見上げると複数の塔。昔はもっとあったらしいが、現在は14の塔が残っているらしい。
チステルナ広場は中心から少しずれたところに井戸がある。縦長の三角形なので、求心性を持つ広場というよりも建物が立ち並ぶ中の隙間という感じで、人を引き付けるというより人が自然に流れ込んでくるような感じ。
ここに面する塔の側面にはなにか人為的に見える傷がたくさんついている。
チステルナ広場から続くドゥオモ広場には教会があり、ここに面する塔の一つには登ることができる。
昔の城壁を超えるとトスカナの青々とした緑地が広がる。
ベルギーのようにどこまでも平たんな平地なわけではなく、ゆるやかな起伏に富んでいて、植生にも変化があって面白いランドスケープ。
ここに来るまでに歩いてきた街の入り口から続くメインストリート。
チステルナ広場と土色の街並み。
この渡り廊下も中世の姿をそのまま残しているのかとても歴史を感じられる。
壁面のレンガはとても古そう。
街の最も奥にある教会の前の広場ではこの辺の住民らしき子供たちがサッカーをしていた。
あまり人の生活感を感じられなかったので完全な観光地かと思いきや住んでいる人もいる様子。
城壁の近くには公園になっているところも。
ほとんど城壁は昔のままで登れるところもある。
街の中心部を見ると、とても小さな町なのにそれに不釣り合いなスケールとプロポーションの塔が林立している不思議な風景。
サンジミニャーノは芦原義信が街並みの美学で言及していて、ぜひとも訪れたいと思っていた都市だったが、今や完全に観光地化されてしまっていて、おそらくここで見かけたほとんどの人が観光客。市場のようなものも見かけなかったし、小さいだけに、城壁内の旧市街地にはほとんど人は住んでいないんじゃないだろうかと思えた。
この特殊な街の中に住む人々がどのように日常を暮らしているのかをあまり感じることができなかったのは残念。
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