フィンランドの建築家といえばアルヴァ・アアルト。
ということで今回のフィンランド行きのもう一つの目的であるアアルトの建築を見て周る。
建設年順に見たものを並べてみる。
○アイラ・ハウス(ユヴァスキュラ/1924~26)
軒裏や雨樋など装飾的な部分が見られる。
○自衛団会館(ユヴァスキュラ/1926~29)
こちらも古典的な装飾と立面構成。
他にもユヴァスキュラにはアアルトがキャリアの初期に手掛けた個人邸がある。
それも含めてアアルトがその後に手掛けたモダニズム建築とはかけ離れたデザインで、アアルトほどの巨匠でも若いころには自身の建築のスタイルが定まっていなかったことや、その変遷過程が感じられて面白い。
○アアルト自邸(ヘルシンキ/1935~36)
おそらく地元のおばちゃんたちに混ざり見学ツアーに参加。
ここはアアルトの自邸であるが、所員が少なかったころには事務所としても使っていたらしい。
リビングルーム。
大きな窓があってかなり明るい。
事務所としての作業場とリビングルームはつながっているが、大きな可動式扉で仕切れるようになっている。
作業スペース。
2層分の天井高だが、2階のベランダに続くロフトのような空間が壁沿いに付属している。
こちらの部屋にも高いところに大きな開口があって明るい。
奥の書庫は中2階のレベルにつくられていたり、外へとつながる部屋の隅は一段下がっていたり、この作業場には色々な高さのフロアレベルが集まっている。
奥の壁面やロフトの側面にはゴザのような珍しい素材が使われている。
アアルトが座っていたという席。さすがボスだけあって良い席に座っている。この自邸は湖に面して建っており、このときは氷と雪でよくわからなかったが、時期によっては窓からの景色はとても美しいように思える。
ダイニング。
2階のよりプライベートな空間。暖炉と反対側の窓からいい光が差し込んできている。
この暖炉のある部屋を中心にいくつかの寝室が並ぶ。
ベランダ。
○サイナッツァロの役場(ユヴァスキュラ/1949~52)
もともとは人々はいったん中庭へと導かれ、役所へと入っていくという空間構成だったらしい。
中庭には小さな池があってしっかりデザインされているらしいが、がっつり雪が積もっている…。
窓に付いている縦材は外部と内部で色・素材が違っていて面白い見え方をする。
せり出したボリュームの裏には木材が。窓枠にも木材が使われていてかなり相性がいい。
小さな図書室。一体化した柱と梁による空間が特徴的。
中庭を囲み、それに向かって開放的な廊下。サイナッツァロの役場では特に暖房器具が巧みに隠されていると感じたが、ここではそれを窓台で隠している。窓台というよりベンチのような感じもするが、座ってみるとレンガがあたたかい。この廊下はなんだか居心地がいい。
議場へと続く階段。素材が赤レンガに切り替わる。
天井の高さの変化に合わせて左の細い木材を並べた間接照明の高さも変化する。とても細かいデザインで、他にも窓枠や天井に木を使うことでレンガだけだと無骨になりそうなところを、繊細さや暖かさのある豊かな空間にしている。
議場。ここでも暖房器具の隠し方が巧みで、壁に沿わされた椅子の裏に隠されている。
屋根の架構が特徴的。
ルーバーの取り付ける角度を変えて見え方が異なるようになっている。
また、吊り下げられたライトの高さが異なる。
アアルトによる議場のスケッチ。屋根架構とライティングへのこだわりが分かる。
各機能を持ったボリュームが中庭をどう囲むかというボリューム的な操作が強いように思える。
この役場はゲストルームが2つあって予約すれば泊まれる。
中庭式なので窓の外を見るといつでもこの建築を観賞できてとても贅沢な滞在。
○ユヴァスキュラ大学(ユヴァスキュラ/1951~71)
この時代のアアルトは赤レンガを好んで使ったらしい。
ホールは天井材、天井高の変化、柱の装飾タイル、階段などのその後の作品にも共通して登場するデザインヴォキャブラリーを用いて作られている。
大きな吹き抜けの大空間はレンガとトップライトが印象的。
こちらの立面はボリューム操作により生まれたような立面。
ほとんどの建物がアアルトによるもののように思えたが、群としてのそれらの様子は校庭や道路が雪に埋もれていてよくわからず…。
○国民年金会館(ヘルシンキ/1952~56)
普段は図書館が見れるらしいが、会議が行われていてエントランスホールまでしか見れず。
外壁には水平のラインや垂直背の強い高層部に銅板?が使われていて色の経年変化がとてもいい味を出している。
エントランスなんかは特に渋くてかっこいい。
○文化の家(ヘルシンキ/1952~58)
あいにくの工事中で全く見れず。
こちらは銅板の棟と赤レンガの棟で分かれている。
○アアルト大学(ヘルシンキ/1955~58)
窓は形が変則的に変化していたり、縦ルーバーが取り付けられていたりと均質ではなく、ちょっとした変化が与えられている。
こちらも内外で異なる窓枠。そして建物内部からもその建物自身が見える。
図書館。天井高やトップライト、ハイサイドライトによって、1つの大きな空間が3列に分割されている。
カウンターの照明もおそらくアアルトのデザイン。
特徴的な形の講堂。ここまで造形的な作品は今回の旅で見た中では珍しい。
演壇に向かって収束する柱・梁が一体となった構造体が印象的。
壁にはオブジェ的な木材装飾。
○アアルト・スタジオ(ヘルシンキ/1956)
見学時間をよく調べていかなかったため中には入れず。確か見学時間は11:00~12:00の1時間しかなく、要予約。
アアルトの自邸から近く、所員が増え、自邸の事務所スペースでは不十分になったため新しく事務所専用の建物をつくったらしい。
○中央フィンランド博物館(ユヴァスキュラ/1957~61)
この裏側は高くなっており、建物の全体像が分かりにくいが、こちら側からみるとかなり形が操作されている。
○ヴォータトルニ・アパート(ユヴァスキュラ/1957~62)
今もアパートとして使われているためエントランスまでしか入れず。左右対称化と思いきやずれ方が違う。
○エンソ・グートツァイトビル(ヘルシンキ/1959~62)
ヘルシンキの港に立つオフィスビル。茶色い窓枠が白くきっちりと割りつけられたファサードに暖かみを与えている感じがする。
○フィンランディアホール(ヘルシンキ/1962~71)
今まで見た中で最もボリューム操作が強く造形的な作品だと思った。
とても美しくライトアップされている。
すぐわきには大きな湖があるのだが、ファサードはそちらの方に面しておらず、むしろ無関係な建ち方をしているように思えるがなぜだろうか。
なにかのパーティーをやっていて2階までは見れず。
このカフェの壁面には青い釉薬タイルが用いられていた。柱の装飾材として白いものが使われているのはよく見たが、このパターンは初めて見る。光沢といい色見といいきれいな素材。
外壁材は微妙に角度がつけられていて、それらのずれから陰影が生まれていた。
○行政・文化センター(ユヴァスキュラ/1964~82)
こちらはおそらく市役所。
こちらは劇場。
この辺の時代から外壁に白いタイルを使い始めている。
○ロヴァニエミのライブラリー(ロヴァニエミ/1965)
ロヴァニエミではこのライブラリーとタウンホール、ラッピア・ハウスが同じ広場を囲むように建っている。
このライブラリーは、広場に向かってピロティというより、基壇の上の列柱廊のような空間がつくられている。
内部には書架で縁取られた低いレベルの場所が数か所あり、閲覧スペースとなっている。低いレベル側の書架の天板のさらに上部には板が取り付けられ、テーブルや物置台として使われている。
床レベルの差やハイサイドライトによって一つの大空間ではあるが、場所ごとに変化がある。
低いレベルに下りると、上のレベルを歩き回る人を見ることはできるもののあまり気にならない。書架に囲まれているので心地よいスケール感で落ち着きがある。
○アカデミア書店(ヘルシンキ/1966~69)
書店のインテリアデザイン。大理石で統一された内装と全てのフロアを突き抜ける大きな吹き抜け、天井面から突き出た特徴的なトップライトが印象的。
併設されたカフェの名前はCAFE・AALTO。
真鍮をよく使うアアルトだが、ここではエスカレーターも真鍮製。
○アルヴァ・アアルト美術館(ユヴァスキュラ/1971-73)
ここにはアアルトの作品が展示してあるが、建築はもちろん椅子を中心とした家具、食器に至るまでアアルトのデザインは多岐にわたっており、アアルトが様々なスケールで総合的に空間をデザインしようとしていたことを感じる。
このうねる木材壁は1939年のニューヨーク万国博フィンランドパヴィリオンでのデザインが用いられているらしい。
○ラッピア・ハウス(ロヴァニエミ/1972~75)
箱形の下部に対して、大きさの異なる複数のゆるやかな山形が特徴的。
劇場内。アアルト大学の講堂で見られた壁面の木材装飾がここでは青く塗られている。
座席や舞台が折れ曲がる位置が中心からずれていて変な感じがする。
なにかの準備中のよう。
面する広場を見てみるが、雪…。
○ロヴァニエミのタウンホール(ロヴァニエミ/1988)
面する大きな広場とは別に、中庭をつくるように小さな空間が建物によって囲まれている。
タウンホール、ライブラリー、ラッピア・ハウスの模型が置かれている。
この3つの建築は広場を中心として群として計画されているような気がしたので、雪がないときには中心の広場は市民にどう使われているのか、3つの施設は広場を介してどのような関係性があるのかというのが気になった。
こうして一人の建築家の作品を年代順に並べてみると、デザインの変遷やその人の共通するスタイルが見えてきて面白い。今回の旅ではアアルトの建築の中で最も重要ともいえるパイミオのサナトリウムとマイレア邸を見ることができなかったので、今度は夏にそれらを見に行きたい。
たくさんのアアルトの建築を見るうちに、多くの共通するデザインヴォキャブラリーが用いられているように思ったのでまとめてみる。
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